長く尾をひく2010年の欧州ソブリン危機
2016年はユーロ安になるというのが世界のアナリストの主流な見方ですが、その原因の1つと言われているのが2010年に発生して、現在でも解消されたとは言えない欧州ソブリン危機です。
直後に起こった中国経済の急減速や原油安に隠れて忘れられている気配すらありますが、危機の内容や現在の対策を見ておくことは、今後の予測に役立つでしょう。
最初に忘れさられている印象の強い欧州ソブリン危機がどのようなものだったのか、コトバンクを引用して振りかえってみましょう。
ギリシャの2009年の政権交代に伴い、国家財政の決算が粉飾されていたことが暴露された。このため、翌10年にかけてギリシャの国債(ソブリン債)の格付けが引き下げられた。ギリシャの国家財政が破綻(はたん)し債務不履行となることへの不安から、ギリシャ国債は暴落し、世界各国の株価およびユーロの為替相場が下落した。ギリシャの他欧州ではスペインやポルトガルなども大幅な財政赤字に苦しんでおり、このギリシャの危機が欧州各国にも波及して国際的な金融危機に発展することが懸念され、世界経済の景気回復に悪影響を及ぼしている。この一連の動きを欧州ソブリン危機という。
欧州ソブリン危機 – コトバンク
この後にもギリシャに対する緊急の財政支援の中心となったドイツと支援を受けるギリシャの間で主に緊縮財政をめぐって様々なやり取りがありましたが、その詳細は次の項目で見てみましょう。
ギリシャの財政赤字の隠ぺいの公表とEUによる財政支援の難航
2010年の欧州ソブリン危機の直接のきっかけは、2009年のギリシャの政権交代で誕生したパパンドレウ政権によるユーロ加盟に際しての前政権の財政赤字の隠ぺいを明らかにしたことです。
ユーロ加入にはいくつかの条件を満たす必要がありますが、ギリシャはそのうち財政赤字に関するデータを偽ってユーロに加入したため、取引市場での国債価格・株価が急落することとなりました。
国債価格と株価の急落によって財政的に苦境に陥ったギリシャは、ドイツを中心とするEU加盟国に緊急の財政支援を求めます。この財政支援が認められた代わりに非常に厳しい緊縮財政によって早期に財政赤字を解消することを主な出資を行なったドイツから強く求められることとなります。
ギリシャとドイツの話し合いは平行線が続き、2015年夏には遂にユーロ離脱を国民投票で問う事態にまでなりました。この国民投票は結果として僅差でユーロ残留が決まったものの、直前までユーロ離脱を優勢とする世論調査が出るなど混乱が続いたため、世界経済にも大きな影響を与えました。
更にギリシャの財政赤字の隠ぺいが明るみに出たことで後発の国の財政状況を改めて精査した結果、オーストラリアやハンガリーといった国でも財政赤字の隠ぺいが明らかになり、リーマンショックの影響から抜け出せていなかったアイルランドでは、EUとIMFによる巨額の財政支援が決定されるなど、その影響は欧州を中心として世界経済全体に及びました。
問題の根幹はどこにあるのか
このように問題が複雑化した根幹には、2008年の世界金融危機の影響やユーロ加盟国間の経済規模の違い、財政支援に対する考えかたの違いを払拭できていなかったことがあります。
特に経済規模と余裕のある財政状況から支援の中心となったドイツでは、自国で稼いだ資産が南欧・東欧諸国の財政支援に利用されることに対する反対意見は根強く、これが市民生活を犠牲にするレベルでの緊縮財政を強く要求する遠因とも言われています。
もちろん支援される側も反発するために話し合いは平行線を辿り、貴重な時間を無為にすることとなりました。
おわりに
このように様々な要因がからみ合って解決の目処が立たないうちに更なる世界経済の失速に巻き込まれつつある欧州経済ですが、発端となったギリシャに対する財政支援は実施に向けた法律が成立するなど、ソブリン危機の解決に向けて進んでいることも確かです。
今後の動向を注意深く見守る必要があると言えるでしょう。