イギリスのユーロ導入_アイキャッチ

イギリスがユーロを導入しない理由は?


なぜイギリスは独自通貨を維持しているのか

21世紀のはじまりとともに米ドルと並ぶ基軸通貨となるべく大々的に導入された欧州共通通貨「ユーロ」ですが、実はEU加盟国でも一部の国は未加入を維持しています。
その中でももっとも有名な国が、イギリスです。ではなぜイギリスはユーロを導入せず、独自通貨のポンドを維持しているのでしょうか。

「英国病」と「サッチャリズム」

第二次世界大戦後に世界のリーダーとしての地位をアメリカに譲ることとなったイギリスは、終戦直後に発足した労働党のアトリー内閣によって「ゆりかごから墓場まで」とも言われる充実した社会福祉と、基幹産業の国有化を目指すこととなりました。
現在の北欧の重福祉国家の先駆けとも言える手厚い社会保障を実現するために莫大な歳出が必要となりましたが、その歳出を支える税収は基幹産業の国有化によって設備投資や技術開発を手控えるようになったために大きく落ちこみ、戦後復興のいちじるしいヨーロッパ圏の中で1970年代のイギリスは「英国病」と言われるひとり負けの状態に落ち込みます。

1970年代を通して英国病に悩まされたイギリスは、「鉄の女」とアダ名されるイギリス初の女性首相であるマーガレット・サッチャーの新自由主義的な思想に基づく社会保障の支出拡大と基幹産業の最民営化を強力に進める「サッチャリズム」によって劇的な経済回復を成し遂げました。
政府による個人や市場への介入を最小限に留めるべきとする新自由主義の考えかたは欧州統合でもあらわになり、イギリスはERM(European Exchange Rate Mechanism =欧州為替相場メカニズム)には参加するもののユーロ導入には消極的でした。
この考えを決定づけたのが、1992年にヘッジファンドを率いていた「イングランド銀行を潰した男」ジョージ・ソロス George Soros によるポンド危機です。
ERMの導入により金融政策の自由を欠いていたことを逆手にとられたイギリスは、ERMから脱退して独自通貨を維持する方向に舵をきり、イギリスのユーロ導入の可能性は限りなく低くなりました。

ユーロ導入のメリットとデメリット

このようにして独自通貨を維持することを決定したイギリスですが、ユーロ導入のメリットとデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

ユーロを導入するメリットはいくつかありますが、為替取引のコストがなくなることによる加盟国間の取引の活発化や市場の拡大、通貨統一によって小国でも安定した財政・金融政策を行うことが可能になることがあげられます。

逆にデメリットとしては、1992年のポンド危機や2010年の欧州ソブリン危機に見られるように、通貨の価値を政治的に決めるために為替市場での為替の調整が機能せずに投機の対象なったときに対応できないことや、財政規律を維持するために歳入が大きい国から小さい国への資産流出が続くことなど、国際金融のトリレンマに縛られるために独立した金融政策がいちじるしく制約されることがあげられます。

今後のユーロ導入の可能性はあるのか

現在はデメリットのほうが目立つユーロ導入ですが、イギリスは今後ユーロ導入に踏み切る可能性はあるのでしょうか。

ある世論調査によれば、イギリス国民の7割ちかくがユーロ導入に反対しているとの結果が出ています。
先にあげた導入によるデメリットだけではなく、かつて「栄光ある孤立」とも言われた日同盟政策を取っていたイギリスのプライドも大きく影響しているため、デメリットをはるかに上回るメリットを見いだせない限り、イギリスがユーロ導入に踏み切る可能性は限りなくゼロに近いと言えそうです。

おわりに

イギリスの通貨政策が正しいかどうかは何とも言えませんが、一定の方針に従った金融政策であることは確かです。
数年程度で結論が出ることではないものの、注目するべきトピックの1つと言えそうです。

投稿者:

ユーロ・インフォメーション

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ユーロ情勢を紐解くユーロ・インフォメーション。欧州の経済に迫ります。