1991年と歴史が浅く、2003年にEU加盟を果たした新興国家であるクロアチアは、EU加盟国でありながらユーロを導入していない珍しい国の一つです。なぜ、EU加盟国でありながらユーロ導入に踏み切っていないのでしょうか。今回は、クロアチアの成り立ちとユーロを導入していない理由についてみてみましょう。
新興国家であるクロアチアの概要
1991年から95年にかけて、旧ユーゴスラビアからの独立を巡り紛争を経験。一部旧紛争地域では、紛争時に埋設された地雷が残るものの、現在の治安はおおむね安定しているとされます。社会民主党(SDP:中道左派)と1990年代を通じ政権与党であったクロアチア民主同盟(HDZ:中道右派)の事実上の二大政党であり、1991年の独立以来、4度の政権交代を経験しています。1991年から1995年にかけてユーゴスラビアとのあいだで繰りひろげられた民族紛争はセルビア人の流出を招き、国内の民族構成が大きく変化しました。セルビア人難民帰還に関しては、国際社会の後押しもあって2000年以降に進められ、紛争中にクロアチアから流出したセルビア系住民約30万人中、およそ半数が帰還しています。
クロアチアの主要産業は、観光業、造船業、石油化学工業、食品加工業などですが、製造業は食品加工業以外の分野では振るわず、対外貿易における大幅な輸入超過による貿易赤字を観光業からのGDPの15~20%になる外貨収入が穴埋めする経済構造です。2008年の世界金融危機発生以前、経済は拡大傾向にあったものの、世界金融危機以降は経済のマイナスないしゼロ成長が続いており、2008年から2014年までの間でGDP総額(実質)は10%以上減少しました。外国からの直接投資は、様々なマイナス要因によって2010年から13年にかけて年総額10億ユーロ前後と停滞気味であったが、2013年のEU加盟と投資環境の改善により、2014年は総額28.7億ユーロに増加しました。
2013年7月のEU加盟でクロアチアはEU諸国との貿易が自由化されたものの、同時にEU未加盟の諸国による中欧自由貿易協定(CEFTA)から離脱したことで、EU諸国との貿易の増加分が、EU未加盟の南東欧諸国との貿易の減少分で相殺される状況となっています。EU加盟により2年以内に財政状況をEUの財政基準に適合させる義務を負っているものの、不況下で歳入が伸び悩み、適合は困難な状況が続いています。
クロアチアの通貨「クーナ」
2013年にEU加盟を果たしたクロアチアですが、共通通貨ユーロには加盟せず、クロアチアの独自通貨を現在でも維持しています。クロアチアの通貨は「クーナ(Kuna = Kn)」といい、2016年6月の為替レートでは1クーナ= 18円~19円程度で推移しています。流通している紙幣は紙幣が8種類、硬貨は4種類があり、補助通貨として「リッパ(Lipa)」が制定されていて、Lipaは6種類の硬貨が流通しています。
なぜクロアチアはユーロ未加盟なのか
このようにEU加盟を果たしたものの、クロアチアは現在に至るも共通通貨ユーロの導入には踏み切らず、独自通貨を維持しています。なぜ、独自通貨を維持しているのでしょうか。クロアチアが独自通貨を維持しているもっとも大きな理由として、EU加盟直前の2008年から2010年にかけて連続して発生した世界金融危機から欧州債務危機があげられます。危機当初は共通通貨であることを活かした危機対応に成功したEUですが、2009年のギリシャの政権交代による財政赤字の露見によりEUの新規加盟した南欧・東欧諸国への財政不安に波及して、条件を満たさないと加入できないユーロ導入に濃淡を招くこととなりました。
このようなヨーロッパの不安定な状況により、財政的に脆弱だったクロアチアはユーロ導入を見送り、独自通貨を維持することとなったのです。
おわりに
経済的な問題からEU加盟を果たしたものの、ユーロ導入を見送り独自通貨を維持することとなったクロアチアですが、政治的・財政的にトラブル続きのEUの状況を鑑みるに、賢明な選択をしたと言えそうです。