2010年の欧州債務危機をきっかけに、PIIGS諸国の一国として財政不安が取りざたされるようになったスペインですが、急激な景気回復を成し遂げました。しかしその景気回復を主導した政権に汚職疑惑が浮上し、今度は政情不安が生じています。波乱万丈のスペインをめぐる状況を見てみましょう。
好調を維持したスペイン経済と不動産バブル
フランコ独裁の終焉を経て1986年にスペインは欧州連合(EU)への加盟を果たし、EU加盟国との経済的な結びつきが強まったことから、他の加盟国を追って急激な経済成長を遂げます。
1990年代後半に入ると、風光明媚な土地柄を活かした不動産業と建設業の急激な拡大が経済成長の言動力となり、2000年から2007年にかけてGDP成長率は3%を上回る好調ぶりを記録しました。
特に不動産市場の成長は著しく、2003年には対前年度比20%を超える成長率を達成しましたが、銀行の債権に占める不動産の比率が上昇したことで、健全な経済成長を超えて、不動産バブルに陥ることになります。
欧州債務危機によるバブル崩壊と経済の失速
2007年にサブプライム危機が表面化したことをきっかけとする世界金融危機が生じると、スペインの不動産バブルは弾けて好調だった経済状況は一気に悪化します。
バブル崩壊によって不動産価格の暴落が発生し不動産価格に依存していたスペイン経済は急激に冷え込み、GDP成長率は2009年にマイナス3.7%と大きく落ち込みます。
これにより財政支出も2009年にマイナス11.1%と大幅な赤字におちいり、同様の問題を抱えた国と一緒にポルトガル (Portugal)、イタリア (Italy)、ギリシャ (Greece)、およびスペイン (Spain) からとってPIIGS(ピッグス)諸国として、債券リスクが警戒されるようになりました。
構造改革による景気回復と汚職疑惑による政情不安
経済危機の中で2011年12月に発足したラホイ政権は、
- 財政赤字削減…歳出削減と増税
- 金融改革…金融機関再編と不良債権処理
- 労働市場改革…解雇コストの低下と若年労働者の雇用促進
- 制度改革…医療・教育・年金・地方行政などの効率化
に取り組むことで、スペインの経済状況を安定させることに成功しました。
国債市場における利回りは最悪だった2012年中頃の10年債利回りで7%台後半という高利率から一定の落ち着きを見せ、2016年1月現在では1%台で推移しています。2013年第3四半期からは、GDP成長率が前期比で10四半期連続プラス成長となるなど、バブル崩壊の痛手から速やかに立ち直り、経済の回復を成し遂げました。
このように経済状況は安定しつつあるスペインですが、2015年第4四半期でも21%(478万人)と高い水準にある失業率は大きな問題であり、暴動こそ発生していないものの16歳から24歳の若年層ではほぼ半数に職がないという極めて深刻な状況です。
若年層の就職率改善が大きな問題として残る中、2013年1月に地元紙がラホイ首相を含む与党国民党の企業献金による汚職疑惑を報じ、スペインでは2014年、2015年と続けて総選挙がおこなわれることとなります。
特に2015年の総選挙では与党の議席が過半数を大きく割り込んだことで政権が成立せず、2016年6月26日に再総選挙がおこなわれることが決定するなど混乱が続いています。
この混乱は経済問題にも影響を与え、2016年の実質GDP成長率見通しを引き下げ2.7%と発表し、財政健全化も2016年中の達成は事実上不可能と見ています。
おわりに
一時はPIIGS諸国に数えられ、明日にも破綻するような扱いを受けていたスペインですが、適切な危機対応によって速やかな景気回復を成し遂げ、安定成長を実現しています。
しかし、汚職疑惑をきっかけとする政治の混乱や高止まりする若年層の失業率など、様々な政情不安の目が潜んでいます。
今後の成長期待は、これらの問題にどのように対処するかにかかっているといえるでしょう。