記憶にも新しい2015年1月のスイスフランの急落(スイスフラン・ショック)をきっかけとして、スイス経済は低迷傾向が続いています。景気低迷のきっかけとなったスイスフラン・ショックは、どのようにして発生したのでしょうか。今回はスイス経済の概要と、スイスフラン・ショックについて見てみましょう。
安定した通貨による金融立国として成立するスイス経済
2013年時点でのスイスの国内総生産(GDP)は世界第20位となる6,508億ドルであり、一人当たりのGDPも約8万ドルと世界でもトップクラスの水準であり、約1割の世帯が金融資産で100万ドル(1億円)以上の金融資産を保有する富裕層と言われています。通貨のスイスフラン(CHF)は「金(ゴールド)よりも堅い」と言われるほど価値の安定している通貨として知られ、「有事の円買い」と並んで「有事のスイスフラン買い」は為替取引の基礎とされています。
近世に至るまでのスイスの主要産業として、「傭兵」があげられますが現在ではバチカンの衛兵隊のみ認められています。
現在ではアルプスに囲まれたヨーロッパ中央という地理的条件を生かして、観光業や電力輸出、銀行や保険を中心とする金融業をはじめとして各種重工業が盛んです。
世間的には「スイス銀行」として知られる秘密銀行(プライベートバンク)は、顧客情報の守秘義務に関して知られ、原則として顧客の情報は外部に漏らさないことから、マネーロンダリングの中継地としてしばしばスイス銀行の口座が使われていました。近年ではこの秘密主義は撤回されつつあり、特に犯罪収益金の没収や犯罪者や犯罪組織、テロリストなどの個人情報の提供などをおこなうようになり、かつてほど厳格な秘密主義ではなくなりつつあります。
世界金融危機をきっかけとする無制限介入とスイスフラン・ショック
このように政治的・経済的に安定しているスイスの通貨であるスイスフランは、2007年の世界金融危機や2010年の欧州債務危機などの金融危機がおこるたびに「有事のスイスフラン買い」として安全資産の1つとして買われたことでスイスフラン高の傾向が続きます。
これに対してスイス中央銀行は日本銀行と同様に為替介入をおこなうことを発表しましたが、スイス中央銀行はユーロ/スイスフランを1.2000に抑えることを宣言し、これを達成するために無制限介入を実施します。
これによりユーロ建て資産がバランスシートの4割まで膨らみ、ユーロの価値の下落とともに資産価値が減じたことから2015年1月に突如として無制限介入の方針を撤回したことで、ユーロ/スイスフランは数時間で数十%も下落する大混乱を招き、為替のみならず株式にも大きな影響を与えました。この無制限介入方針の急な撤回と、それによるユーロ/スイスフランの為替レートの急変をきっかけとする国際金融の混乱はまとめて「スイスフラン・ショック」と呼ばれています。
スイスフラン・ショックがスイス経済にもたらした影響とは
世界的な混乱の原因となったスイスフラン・ショックは、スイスの実体経済にも大きな影響を与えることとなりました。前年の2014年までは安定成長を続けていたスイス経済は、2014年の財政赤字はGDP比でわずか0.02%の1,240万スイスフランにとどまるなど堅実な財政を維持していました。しかしスイスフラン・ショックにより為替レートが混乱し、輸出入が急減したことから2%の経済成長を見込んでいた2015年は0.9%の成長にとどまるなど、スイスの実体経済にも大きな影響を残すこととなります。
おわりに
市場との対話に失敗したことで金融市場に大きな混乱を残すこととなったスイスフラン・ショックですが、足腰の強いスイス経済により比較的軽微な影響で済んでいます。
「有事の円買い」と並んで「有事のスイスフラン買い」と言われるほど外国為替市場での信認が高いスイスとスイスフランは、今後の動向についても注目したいといえるでしょう。